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第4回山口大学国際シンポジウム

「民間企業、大学が参画できる国際協力」開催

~民間企業からの参加者を交え、活発な議論が展開されました~

山口大学及び近隣の大学の教職員が国際協力について考える機会を提供し、大学が参加出来る国際協力の仕組みを紹介する場の提供を目指して昨年2月に開始した「山口大学国際シンポジウム」も第4回を迎えることが出来ました。今回は国際協力、国際ビジネスに関心を有する民間企業、市民団体、地方自治体、大学の関係者が、国際協力と民間ビジネスの連携についての理解を深め、具体的にどのような形でJICA等の実施する国際協力事業に参加出来るのかを考える目的で、「民間企業、大学が参画できる国際協力」をテーマに、7月23日(金)に第4回山口大学国際シンポジウムが山口大学会館2階会議室で開催されました。

シンポジウムには山口県立大学、岡山大学、愛媛大学、九州大学、山口大学の教員に加え、山口青年会議所会員を含む民間企業、市民の方、山口大学学生など40名余の参加がありました。

最初に丸本学長が開会挨拶で、「論文発表数の減少、日本人学生の国内指向等、日本の大学の国際化には多くの課題がある。こうした中で、山口大学では地域と連携して国際交流や国際協力を進めたいと考えて「国際協力の里ネットワーク」を設立した。本日のシンポジウムには民間企業の方も多数参加頂いているので、産官学連携による国際貢献のあり方につき、活発な意見交換を期待している。」と述べたのを受け、次の通り問題提起がなされました。

  1. 「国際協力における官民パートナーシップ~必要性、意義と連携のあり方~」
    (国際協力機構(JICA)民間連携室連携推進課山田哲也課長)
    国際協力分野での官民連携に関する最近の動向、官民連携を望む各界の要望、官民連携の実例等の紹介を交え、JICAが行っている官民連携の枠組みについて説明されました。
    (発表資料PDF998KB)←こちらをクリックしてさい。
  2. 「ODA事業参画企業の事例報告」
    (ヤマハ発動機株式会社・海外市場開拓事業部第3開拓部の山田利治部長)
    ヤマハ発動機の事業と海外展開の紹介の後、ODA事業への参加から始まったセネガルでの零細漁民向け船外機、小型漁船の供給ビジネスが紹介されました。ODAでものを販売するだけでなく、修理用部品の供給、メンテナンス・サービスとそのための技術者育成によりビジネスの継続性を確立し、更に新製品の紹介とそれに必要となる新技術(漁法、加工技術)の紹介、この西アフリカでのビジネスを拠点とするアフリカ全土へのビジネス拡大が具体的に紹介されました。最後に「社会的価値創出ビジネス」と位置づけ同社がアジア諸国で展開する「村落向け浄水装置」ビジネスについても紹介がありました。
  3. 「国際協力とビジネス機会~BOPビジネス等新たな官民連携のあり方」
    (国際協力機構(JICA)民間連携室連携推進課山田哲也課長)
    BOPビジネスの定義、貧困層が負っている社会的不利益(BOPペナルティー)とその解消法、市場は一つの国にも複数(都市と農村部)存在し、それぞれが異なった特性を持つといった点についての説明がありました。
    (発表資料PDF1.23MB)←こちらをクリックしてさい。

問題提起を受けての質疑応答では、「開発援助でのEmpowermentとBOPビジネスの関係」、「官民連携がある種の市場の歪曲かを生まないのか」、「地方の小規模企業が官民連携のパートナーとなる仕組みはあるのか」といった質問が出され、それぞれの問題提起者から簡単な説明が行われました。

休憩を挟んでの後半は、問題提起を行ったお二人に、新たに株式会社トクヤマの白神(しらが) 誠一 顧問、山口大学医学系研究科(農学系)山田 守 教授、コメンテーターの 畠中 篤 山口大学特別顧問(交流協会理事長)が加わり、「国際協力における官民連携の展望と大学の関与」についてパネル・ディスカッションが行われました。白神顧問からはトクヤマの海外での事業展開の紹介の後、同社が地域に根を生やした土着的企業(プラント型)であるとの特性を説明されました。その上で、企業は国際協力のために海外展開するのではないが、企業が海外で価値の創造を行うことにより、雇用創出、地域発展といった「貧困脱出」に貢献しているとの考えを述べられました。官民連携に関しては「官」は何をするのかが明確でないと指摘され、大学に対しては海外展開する企業が求める優秀で日本文化に対する一定の理解を有する人材の育成に期待していると述べられました。山田教授はアジア諸国の研究者と現在行っている「中高温機能微生物」の研究につき紹介された後、大学が国際協力を行うことは困難だと考えるが、教員は一般的な教育や海外との共同研究を通して人材育成を行ってはいる。特別に想定はしていなくても海外との共同研究ネットワークが人材育成のみでなく、研究成果を社会に還元することは出来ると考えている。ただ、研究成果を実用化レベルに高める、その技術を民間企業に知らせ活用してもらうと言ったプロセスは、必ずしも大学のみで出来るものではない点、また、途上国の若手研究者に継続的な研究環境を整備するといった課題もあり、こうした場面で官の支援が必要になると指摘されました。お二人の発言をもとにパネラー間での意見交換がありました。

最後に、畠中顧問が「国際協力における官民連携については1980年代頃から民間からも要望が出され、理屈としてはよく言われてきた。しかし、民間が期待する欧米などで見られる個別ビジネスの後押しについて、日本政府は消極的である。一方、日本企業に対するビジネスチャンスとしてODAの制度(日本企業にのみ競争参加を認める、いわゆるタイド援助)が設計されていた点も見逃せない。日本の援助は欧米の貧困者支援よりも社会インフラ整備、人材育成に重点を置いてきており、これが特にASEAN、中国等の経済発展と、そこにおける日本企業のビジネス機会に貢献してきた。今後は、日本企業の海外展開に対する直接投資や融資を行う「海外投融資事業」の再開も議論されており、企業活動に対する直接的な支援も期待されるので、JICAとして活用価値のある制度として欲しい。更に、国際協力に参加したいという企業等の相談に、JICAがどこまで対応できるかも課題である。自分たちの仕組みに合致する提案だけを受け入れるのでなく、相談者と共にプロジェクトを形成するといった姿勢が望まれる。最後に、本シンポジウムの趣旨には、丸本学長が提唱された「山口国際協力の里」構想を通じた山口県の活性化がある。大学が官民連携を進める上でどの様な役割を果たしうるのかについて、本日の議論を参考にして考えていって欲しい。」とコメントされ、ディスカッションを終了しました。

以上の問題提起、パネル・ディスカッションを受けて、全体討議に移りました。参加大学の教員からは、留学生の採用に対する企業の考え方や、留学生向け英語コースの卒業生の場合の対応につき質問が出され、企業からは安定的に優秀な人材を確保する必要性は高まっており、また国内での採用と海外での採用によって言語に対する需要は異なるが、やはり日本での生活経験を踏まえ、日本文化や日本人の考え方についてある程度理解できる人材が望ましいとされました。このことに関し山口大学教員から、多様な分野の企業から講師を招き「日本企業文化理解講座」を現在開講しているとの紹介がありました。山口青年会議所の方からは、本日のシンポジウムを聞きBOPビジネスに関心を持ち、そうした面で官民連携のイメージは理解出来た。ただ、大学と企業との連携についてはイメージしにくいのが現状で、山田先生の発表されたような研究につき、企業にもわかりやすく情報提供して頂くと有益だと思うし、企業にとっての各種情報等で大学が安心感を与えてくれるような存在であって欲しいと思うとの要望が述べられました。また、日本の援助は相手国からの要請に基づくのが原則であるが、官民連携で進めるプロジェクトでも変わらないのかとの質問には、JICAからプロジェクトの発掘や形成で民間企業や大学と連携する場合は必ずしも相手国の要請を必要としないが、具体的な官民連携での協力プロジェクトを実施する場合には要請を求めることになるとの回答がありました。

今回のシンポジウムを通じて感じられたのは、民間企業や大学が、改めて国際協力、国際貢献をするのだ、しなければならないのだと考えると困難な点もあるが、本来のビジネスや研究・教育活動が国際協力や国際貢献につながってゆく、企業や大学が自分たちの活動を行う中で、少し国際協力、国際貢献についての意識を持つことで新しい展開が見えてくるかも知れないと言うことでした。民間企業や大学が国際協力の分野は大学にとっても、民間企業にとっても縁遠いものではなく、ヤマハやトクヤマの事例から、通常の企業活動の中で少し視点を変え、考え方を広げるだけでも途上国の発展に役立つのだというメッセージを発することが出来たと思います。同様に、大学にとっても改まっての国際協力でなく、日頃の教育・研究を途上国の発展と結びつけるちょっとした工夫や努力が重要だと言うこと、更にはそのために民間企業やJICAとの連携の仕組みを考えることが必要だと言うことを、参加者の皆さんに理解頂けたのではないでしょうか。

地域と連携した国際貢献を目指す山口大学にとって、今回のシンポジウムは終了後の懇親会も含め、民間企業の方々と意見を交わす良い機会になったと思っています。今後も地域の方々と大学がより緊密に意見交換をする機会を持ち、協力し合って海外での活動や地域の活性化に貢献できる様に努力して行きたいと考えています。