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第6回山口大学国際シンポジウムが開催されました

~地方大学における国際化への取り組みについて~

挨拶

近年求められる大学の国際化に対応するため、国際化に関する情報を共有し、また大学外のリソースとの連携による国際化へのヒントを得る機会として、山口大学が中国・四国・九州地方の大学に呼びかけ、2009年2月に第1回が開催された「山口大学国際シンポジウム」も、今回で第6回となりました。

今回は地方大学で国際活動に取り組む教員が集まり、それぞれのユニークな国際活動を相互に紹介し、今後の国際活動へのヒントとして情報を共有することを目的に、3月9日(金曜日)に8大学の関係者30名が参加して開催されました。

第1部の事例発表では、参加大学の国際活動の取り組みが紹介され、そうした活動がどのように企画され、大学がそれら活動をどのように位置づけ、支援しているかについての情報共有と意見交換を行いました。

第2部は、国際協力機構(JICA)から大学に出向している教員によるパネルディスカッションで、JICAから見た大学の国際化の課題や今後の方向性についての議論を展開しました。

第1部での発表事例は以下の通りです。
発表者 発表テーマ 発表概要
原田 博客員 教授
山口大学農学部
ベトナムにおける民間との連携活動 国際協力活動推進プラットフォームの活動として、ハノイ農科大学を中核として大学・民間連携による学部横断型の国際活動の形成プロジェクト
吉成 安恵 准教授
宮崎大学国際連携センター
地域特性を活かした国際協力活動 宮崎で過去に大きな被害を経験し、克服してきた経験を基に実施する砒素汚染対策と口蹄疫防疫対策の国際協力活動
進藤 優子 准教授
山口県立大学国際文化部
YPU TFT(山口県立大学Table for Two) 健康な食事をとることで、途上国の子供達に学校給食を届けようという学生の活動。学生らしい発想で大学内外での「つながり」を生み出している
柾本 伸悦 プロジェクトセンター長
広島経済大学興動館
インドネシアの復興を目指して 2006年に起こったジャワ島中部地震で被災した方々への支援を目的に始まった学生プロジェクトの理想と現実の報告
今津 武 特命教授
山口大学経済学部
研究科横断型英語による授業 大学の国際化のための英語による授業提供は、多くの大学での課題であるが、研究科横断でのリソース活用による、より質の高い授業提供を目指す
石沢 祐子 准教授
岡山大学国際センター
日本人学生の留学・異文化交流推進 グローバル人材育成の重要性を再認識した、日本人学生の留学支援の具体的取り組みとその成果
土屋 由香 教授/楢林 建司准教授
愛媛大学法文学部
グローバル・スタディーズ・コース 地域(ローカル)を大切にしながら、海外フィールドワークを中心とする体系的カリキュラムで、Think & Act Globallyな人材育成を目指す

*発表内容は発表テーマをクリック下さい。

発表後の意見交換では、「グローバル人材育成と国際活動をどの様に結びつけていけるのか。」、「日本人学生の海外経験を支援するインセンティブとして、就職に有利に働くことが望まれる。」といった意見が出され活発な意見交換がなされました。その結果、若者の『内向き指向』が言われているが、地方では国際的な情報に触れる機会が乏しいだけで、今回参加したいくつかの大学の事例では、適切な指導があれば学生達の海外に対する関心や海外経験への意欲は高いと考えられる事が確認されました。また、就職については、どの大学でも海外経験が有利に働いている事が伺われました。

留学生と日本人学生の交流を促進する岡山大学の”English Café”、山口県立大学の”TFT”、広島経済大学の「興動館プロジェクト」、愛媛大学の「グローバル・スタディーズ・コース」など、学生に自ら企画させ参加させる海外活動に対する参加者の関心が高かったようです。

宮崎大学の地域の経験に基づく国際協力が複数大学のコンソーシアムで実施されている点に関し、そのメリット、デメリットなどに議論が及び、1地方大学では国際協力活動を実施するのは困難な点も多く、解決すべき課題はあるが複数大学が連携して実施することが望ましいとの考えでまとまりました。

山口大学学長特別顧問の畠中 篤氏からは、成果の出ている事例をより広く学内外で多くの人に知ってもらうことが、大学の国際活動を推進する上で重要ではないか、また、JICには、そうした大学の国際活動を支援する枠組みを検討して欲しいとの指摘がなされました。

第一部の様子 第一部の様子


第2部では、「JICA職員から見た大学の国際化」と題して、以下のメンバーでの議論を基に、参加者全員での意見交換が行われました。

  • モデレーター: 山口大学・今津武
  • パネリスト: 岡山大学・石沢祐子 先生、高知大学・菊地智徳 先生、宮崎大学・
    吉成安恵 先生、福山市立大学・米田博 先生
  • コメンテーター: 国際協力機構(JICA)・富本幾文 客員専門員

大学の国際化には多様な要素があるが、教育を通して日本人学生の外国語や国際的な事象に関心を持たせることが重要ではないかとの指摘がありました。TPPの議論でも明らかなように、地方だからと言って海外と関係がないとは言っておられないグローバル化の中では、「国内」と「国際」という2分法的考えでなく、教育や社会貢献を国際的な視点を含めて考える必要性が示唆されました。この点に関連し、フロアーから「海外を見ることが学生の国際理解、国際的視点を高めることは十分理解しているが、時間や資金的な障壁もあるため、日本国内でも出来る国際理解はないのか?」との難しい問題提起がなされました。パネラーからはやはり「見ること」が重要との意見と共に、自分の足下の課題をグローバルな視点で見てみること、JICAの国内事業を活用し、帰国した青年海外協力隊員や海外からの研修員と学生を交流させる取り組み等が紹介されました。

コメンテーターの富本氏からは、JICAの大学への期待として次の点が指摘されました。

  • 地域の特性(付加価値)を国際協力に活かすこと。
  • 日本人学生や教員の国際的視点にも役立つ留学生の受入。
  • 課題解決策として大学の「知」が国際協力に必要であり、人員も含めた協力リソースの安定的な供給。

大学の国際協力活動にかかる課題として、必要な事務処理に効率的に対応するため部局横断的な体制づくりが望まれること、担当教員は研究に重点を置くためJICA事業のように限られた期間で一定の技術移転の成果を求めるプロジェクトに対する概念が十分でないこと、国際、地域連携活動が教員の評価に結びついていないことなどが明らかにされました。特に、最後の点については、参加大学全てから大きな課題として今後の改善が望まれるとの指摘がありました。

最後に、畠中特別顧問から、参加された各大学の教員は、問題意識を持ってそれぞれ努力されている事が理解でき、大変勇気づけられた。今後もこうした活動を続け、この輪が広がっていって欲しいとの発言がありました。

第二部の様子 第二部の様子

山口大学の国際活動への取組として始まったこの「国際シンポジウム」は、中国、四国、九州の大学が、国際化や国際活動を考える「場」として定着し始めています。今回のシンポジウムでも指摘された、地方における「国際関係情報の不足」を少しでも解消してゆくことを目指し、このシンポジウムを継続して行ければと考えています。山口大学が中国、四国、九州の国際活動ネットワークの中心として貢献できれば、本学の国際化、国際活動を支える重要な活動と位置づけられるでしょう。(文章責任・今津)

以 上